第21章 探偵、美術館へ行く/沖矢、コナン
(探偵、美術館へ行く)
うららかな土曜の昼下がり。私は数冊の本を持って工藤邸、もとい昴さんの元を訪れていた。
玄関を開けて迎えてくれたコナンくんの頭を撫でてリビングへ向かう。今日は借りた本を返す他にもう一つ目的があるのだ。
「え?ホームズ展?」
「そう、来週から東都美術館でやるんだけど、うちの病院が協賛しててね。コナンくん好きかなーと思って。」
”特別優待”と赤い判の押されたチケットをテーブルの上に並べる。その数3枚。
彼の手に握られたフライヤーには”コナン・ドイルの執筆ノート日本初上陸!”という文字がでかでかと踊っている。
「他にはね、当時のロンドンの街並みを再現したセットで写真が撮れたり、ドイルの肉声が聞けたり…。」
「ほーVRでロンドンの街を歩けるとは、近代的ですね。」
コーヒーのカップの乗ったお盆を持ったまま、昴さんはコナンくんの後ろから覗き込むようにそれに目を落とした。
「結構リアルらしいですよ。うちの院長が一足先に体験してきたんですけどね、60過ぎのおじさんが大興奮してましたから。あ、昴さんも興味あります?」
「マジかよ!?緋色の研究の初版本!?」
昴さんの分もチケット持ってきましょうか、と口を開きかけた時だった。コナンくんの興奮したような大声でそれは遮られる。
彼が急に立ち上がるものだから、昴さんは「おっと」と慌てて一歩後ずさることになった。
しかしコナンくんはそんなことを気付くことなく、フライヤーの一部分を指差して私達にも見えるようにテーブルに置いた。
その指の先を目で追って、思わず私も立ち上がりそうになる。
「そうそれ!しかもドイルのサイン入り、世界に2冊しかない超貴重本!私、これ見るためだけに行ってもいいと思ってるんだよねー。」
まさかコナンくんが私と同じところに興味を持つとは。小学生だとトリック再現コーナーとかに行きたがるかと思ったのに。嬉しくなってつい声を上げる。
隣に座った昴さんがくすりと笑った。