第19章 健康診断/少年探偵団
「えへへー健康診断でさくらお姉さんに褒められちゃった。」
「僕もです!」
「俺も!今までの医者は太り過ぎとしか言わなかったのによー好き嫌い無いのはいいことだってよ!優しいよな!」
「前の新出先生も優しかったけど、歩美はやっぱり女の先生の方がいいなあ。」
健康診断最後の内科検診。保健室から出てくる生徒たちは皆一様に嬉しそうな表情をしている。
俺の時もそうだったが、さくらさんは全員に一言ずつ何か声をかけているようだった。
「あなたは、何を言われたの?」
「あん?」
「さくらさんよ、内科検診でみんなにコメント言ってたみたいじゃない。」
俺が出てくるのを待っていたのだろうか、保健室横の階段を昇ろうとすると非常扉に寄りかかった灰原に呼び止められた。
「ああ、俺は別に。もうちょっと体重増やしても良いかなって言われたくらいだけど?オメーは?」
「そう…。私ね、”悩みがあったらいつでも相談してね?カウンセリングは専門外だけど、話くらい聞けるから、ね?”って。」
灰原がそれまで握り締めていた右手を開くと、そこにはやや皺になったメモ用紙が一枚。
受け取ってゆっくりと開けば、さくらさんのものなのだろう、電話番号と住所が綺麗な文字で綴られていた。
「あの人らしいな。分かったろ?俺が悪い人じゃねーって言う理由。組織の人間ならこんな簡単に住所なんて明かさねーよ。」
にっと笑ってみせると、灰原の頰も少し緩んだ気がした。
「あなたって、意外と単純なのね。それとも美人に弱いだけ?」
灰原は俺の手からメモ用紙を取り上げると、今度は大事そうに折り畳んでポケットに入れた。
「あ、おい、別に美人だからってわけじゃねーよ!待てって灰原!」
慌てて階段を昇り始めた彼女の背中を追いかけた。