第19章 健康診断/少年探偵団
嫌な顔一つせずに子供達の相手をする彼女を横目で眺める。
「それにしてもさくらさん子供好きなんだな。」
どうやら彼女達は好きな食べ物の話題で盛り上がっているようだった。
「あなた何言ってるの?そんな場合じゃないでしょ?私とあなたのことがバレてここに潜入してきたかもしれないのに。」
「潜入?今そんなスパイ映画でもやってるの?」
その声に顔を上げると笑顔のさくらさんが立っていた。
灰原が驚いて箸を取り落としそうになっている。ここは余計な会話をしない方が得策だろう。
「ううん、なんでもないんだ。さくら姉ちゃんはもう食べ終わったの?」
「うん、早めに行って準備しないといけないからね。じゃあ後で保健室で待ってるね!」
みんな、また後でねーとさくらさんは手を振って教室を後にした。
「私も、ご馳走様。昼休みのうちに早退するから。」
ほとんど手付かずのお盆を持って灰原は席を立とうとする。
「おい灰原、お前全然食ってねーじゃんよ。食わねーんならそれもらってもいいか?」
それを目ざとく見つけた元太が自らの空のお盆を手に近づいてきた。
その後ろには心配そうな顔をした光彦。
「灰原さん具合悪いんですか?ならさくらさんに言って診てもらった方がいいんじゃ…。」
「大丈夫だから!放っておいて!」
パシンと音がして、差し出した光彦の手は灰原のそれに弾かれた。
「それ、食べたいのならあげるから。」
元太の手にお盆を押し付けると灰原は教室の外へ飛び出して行った。
「歩美ちゃん、ごめん、俺の皿片付けておいてくれるか!?」
その後を追って俺も走り出す。クラスメイトや小林先生が目を丸くしているのが見えたが今はそれどころではない。