第17章 勘違い事件簿/安室
「ほう、それでこの毛利小五郎に。」
「そうなんです。今日、本人は仕事なんですけどマンションの鍵を預かってきているのでこの後一緒に来ていただければと…。」
水曜日の午後2時。
蘭ちゃんも今日はテスト期間で午前放課だそうで、途中のカフェで待ち合わせて事務所へ連れて来てもらった。
「でも、男性なんですよねぇ。それに特に何か盗まれたりとか危害が加えられてるわけでもないなら自分で何とか…。」
毛利探偵は壁にかかったカレンダーをちらりと見た。
”ヨーコちゃん生放送16時”
今日の日付にそう書いてある。
「お父さん!?どうせ録画してあるんだから行ってきなさいよー!」
「バッ、生放送はリアルタイムで観るからいいんだろーが!」
「なら代わりに僕が行きましょうか。」
毛利探偵と蘭ちゃんの間で口論が始まろうとしたところで、入口の方から声が聞こえた。
振り返ると安室さんがお皿を片手に立っている。
「この間のハムサンドのお皿を取りに来たんですが…たまたま聞こえてしまって。僕あと1時間で上がりですから、その後でよければですけど。」
あっと声をあげそうになるのをギリギリで抑えた。「いいですか、僕がバーボンだってことは外では絶対に秘密なんです。特に、毛利探偵の前では…頼みましたよ。こうして組織の用事以外で会うときは今まで通り”安室透”でお願いしますね。」と何度も念を押されたのだ。
「ええ、今日は休みなので時間は全然構わないんですけど…。」
ちらりと毛利探偵を見るとラッキー、とばかりに「悪いな、安室くん。」と彼の肩を叩いている。
ふと、安室さんと目が合った。
「あ、僕じゃ不安ですか?大丈夫ですよ、僕だって毛利探偵の助手なんですから!」