第16章 報告はディナーの後で/安室
「一般人?こいつがか?」
一応銃をしまってくれたジンは安室さんの車に寄り掛かる。
「あれ、知らなかったんですかい?こいつ普段はカフェの店員だかやってるみたいですが、うちの組織ではバーボンってコードネームが付いてますぜ。」
「うそ…そうなの?」
てっきり知ってるもんだと思ってやした、といつの間に来ていたのかウォッカもジンの隣で煙草に火をつけた。
驚いて安室さんの顔を見ると、そういう事なんです、と苦笑している。
「すみません、秘密にしておくつもりはなかったんですけど言い出す機会がなくて。あ、でもテニスコートで会ったのは偶然ですよ。」
組織のネットワークが広すぎるのか、私の世界が狭すぎるのか…思わず頭を抱えた。
「じゃあ僕はこれで。さくらさん、お休みなさい。」
未だに頭が混乱している私を置いて、白い車は走り去っていった。
「…とりあえず上がります?」
マンションの住民が通りがかりに不審な視線を投げていたことに気付く。それもそうだ。高級外車の横に黒ずくめの大柄な男が2人。そこに小柄な女が立っていたら訝しく思うのも無理もない。
一先ず私の部屋で話をしようかと思ったのだ、が。
「いや、すぐに済むからここでいい。ボスからの伝言だ。”さくらにギムレットというコードネームを与える。期待しているよ。”とのことだ。」
「え、ええっとギムレット?ベルモットさんが私のことそう呼んでるけど…コードネーム?私何もしてないのに?」
突然の話でもうパニックだ。これが漫画だったら私の頭の上にはクエスチョンマークがいくつも浮かんでいることだろう。
「期待を込めて、ってことらしいですぜ。何でギムレットなのかは分かりやせんが…。」
「フン、大方あの女狐だろう。奴はあの方のお気に入りだからな。」
「とにかく、あっしらはそれを伝えに来ただけでしたから。また何かあったら連絡しますよ。」
「改めてよろしく頼むぜ、ギムレット。」
ジンとウォッカを乗せたポルシェが去った後も、その言葉だけは地下の駐車場に反響しているような気がした。