第16章 報告はディナーの後で/安室
「やっぱりお医者さんてことは、お薬なんかにも詳しいんですか?」
「専攻は救急医学だったので専門家と呼べるほどではないですが…一応知識として薬理も学んでますよ。」
「一度聞いてみたかったんですが、ドラッグストアで売っているような所謂市販薬の中で一番効くのってどれですか?」
「うーん、正直なところどれも有効成分は大差ないんですよね。初期の風邪なら栄養とっていっぱい寝るのが一番ですよ!」
ですよね、と明るく笑う安室さんに当初抱いていた言い知れぬ警戒心は薄らいでいた。
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「本当に今日はありがとうございました。ご飯、美味しかったです。」
「いえ僕も楽しかったです、またお誘いしてもいいですか?」
「もちろんです。今度ポアロにもお邪魔しますね。」
「是非。コーヒーご馳走しますよ。」
マンションの駐車場に停めた車の中で安室さんに礼を言って車のドアに手をかける。ガチャリと半分開けたところで、横から声がかかった。
「バーボン…テメェ人の女に手出すとは偉くなったもんだな。」
見るとサイドガラス越しにジンが安室さんに銃口を突きつけている。
「いやだなあ、ご飯をご一緒しただけですよね、さくらさん?」
「え、あ、はい…そうですね…。」
両手を頭の横に挙げた安室さんはあの素敵な笑顔で同意を求めてくるが、こちらとしては気が気ではない。
「…ジン?一般人に拳銃を向けるのはどうかと…。」
そう、やんわりと銃を下ろすように言うことが精一杯だった。