第16章 報告はディナーの後で/安室
(報告はディナーの後で)
午後1時。
枕元に置いた携帯が着信を知らせる。
私は夜勤明けの朦朧とする頭で通話ボタンを押した。
ああ、また誰からの電話か確認するのを忘れていた。耳に当ててから後悔する。
「はぁい。」
口を開くと存外に間抜けな声が出てしまった。
仕方がない。こちらの都合を考えずに電話してくる相手が悪いのだ。メールにしてよ、メールに。
「あ、すみません、お休みでしたか?」
電話から聞こえてきた声は聞き覚えのないもので、つい訝しげな声が出てしまう。
「…?どちら様ですか?」
「名乗るのが遅れました、安室です。この前テニスコートでお会いした。すみません、実はあの日あなたの連れの方に連絡先を聞きまして。」
そういえば後輩が帰り道にそんなことを言っていた。しばらく連絡が無かったのですっかり油断していた。
「ああ安室さん。その節はお世話になりました。何かありましたか?」
電話の向こうの相手に見えるはずもないのに、居住まいを正した。何となく、安室さんには弱みを見せてはいけない気がする。
「あ、いえ特に何がというわけではなかったのですが…今度食事でもどうかと思いまして。」
「食事…ですか。」
お似合いっすよ!という後輩の言葉が頭を過ぎった。
◻︎
安室さんが予約をしてくれたところは雰囲気のいいフレンチレストランだった。夫婦が2人で営んでいるとてもアットホームなお店で私はここがとても気に入った。
「コースで頼んじゃいましたけど、苦手な食材とかありました?」
「あ、いえ、特にないので大丈夫ですよ。フレンチなんて久しぶりだから楽しみです。」