第13章 テニスコートの出会い/安室
小走りでコートへ戻ると、後輩がニヤニヤした顔で近づいて来た。
「センパーイ、なんかあの男の人といい感じじゃないっすかー。」
「違うって、ニッパー借りてただけ。」
「でも先輩彼氏いないんでしょ?いいと思うけどなー安室さん。」
うるさい、と頭を小突いてやる。痛ぇ!と大袈裟な反応の彼を尻目にベンチへ向かう。
気付けば日も高くなり、早朝からいた人達は後片付けを始めているのがほとんどだった。
俺らもそろそろ帰りますか、という後輩にならって帰り支度をする。
「ごめんね、私のせいで全然打てなかったでしょ。友達にも謝っておいてくれる?」
「ああそれは気にしなくても、みんな良いモン見れたって喜んでましたよ。また休み合うとき誘ってもいいすか?」
「そうね、今回の埋め合わせもしたいし。今度はラケット2本持って行く事にするわ。」
頼んますよ、と運転席で彼は笑った。
私のマンションに着いたところで、言い忘れてましたけど、とニヤけながら彼は口を開いた。
「安室さんに先輩の連絡先聞かれたんで教えちゃいました。何か進展あったら教えてくださいね!じゃ、お疲れっすー!」
走り去る彼の車のテールランプを見ながら、大きく溜息を吐いた。
「次会ったら覚えときなさい!」