第13章 テニスコートの出会い/安室
大丈夫、と2人を制してラケットを拾う。
数メートル先に飛ばされたそれは、中心部のガットが切れてしまっていた。
「あらら、コレじゃもう試合続けられそうにないわ…」
みんなに見えるようにラケットを振る。
「今日はこれ1本しか持ってきてなかったし、やっぱり自分のラケットじゃないと調子出ないから…」
僕のラケット貸しますから、と言いかけた後輩は残念そうな顔をして仕方ないっすね、と呟いた。
安室さんと蘭ちゃん、園子ちゃん、それに集まったギャラリーにすみませんと頭を下げてコートから出た。
予想外に汗をかいてしまった。
汗を流そうと後輩に水道の場所を聞き、タオルを持って歩き出す。
道すがら色々な人に声をかけられた。
さっきの試合見たよーとか、うちらとも今度試合しませんか?とか、今度指導して欲しいです!とか。
数歩歩くたびに入れ替わり立ち替わり声をかけられるものだから、キリがなくなってついには走り出してしまった。
蛇口を捻って頭から水を被った。汗ばんだ肌に冷たい水が心地いい。
ふうっと息を吐いて、近くのポールに引っ掛けたはずのタオルを手探りで探した。
「どうぞ、これですか?」
「あ、ありがとうございます。」
差し出されたタオルで頭を拭く。
顔を上げると、そこには先ほどまで試合をしていた安室さんが立っていた。