第13章 テニスコートの出会い/安室
(テニスコートの出会い)
「先輩、確か高校時代テニス部だったって言ってましたよね?」
食堂でお昼を食べようとトレーを持って並んでいたところに、大学時代の後輩が近づいてきた。
彼も同じようにトレーを持って私の後ろに並ぶ。
「そうだけど…もう出来ないよテニスなんて。ブランク何年あると思ってるの?」
「いやいや先輩、聞きましたよーインターハイでいいとこまで行ったらしいじゃないですか!そこでお願いがあるんですけど!」
彼は顔の前でパシンと両手を合わせた。
話を聞かない後輩に溜息を吐く。
こうなったら彼は話を聞いてくれないことを私は知っている。
「僕最近ストリートテニスにハマってて休みの朝よく行くんですけど、そこの皆に先輩の話したら試合したいって言い出して。シングルスが嫌なら僕とミックスダブルスでもいいですから!大丈夫っす、そんなガチなやつじゃないんで!次の土曜、先輩休みですよね?僕も丁度休みなんですよ!予定なかったらどうすか?」
「ちょっと待ってよ、」
「あ、ここのお会計僕が払いますね!じゃあ週末お願いしまーす!」
そんな勝手な…と呟いた声は彼には届かなかった。
しかもA定食の料金を払われてしまった手前無視するわけにもいかない。
帰宅したらクローゼットの奥にしまい込んだラケットの調整をしようと決めて、ご飯に箸をつけた。
◻︎
土曜日の午前6時半。
眠い目を擦りながら後輩の車に揺られ到着した公園のテニスコート。
「何がガチなやつじゃない、よ…。」
5面あるコートは早朝にもかかわらずそれぞれ賑わっていて、ボールの軽快な音が響いている。
後輩はここで待っててください、と言い残して友人を捜しに行ってしまった。
手持ち無沙汰にコートに視線を投げる。どのコートも綺麗にラリーが続いている。
ストテニにしてはレベルが高い方だ。
ふと、あるコートのギャラリーの中に見知った後ろ姿を見つけた。
近づいて行って声をかける。
「蘭ちゃん?」
「さくらさん!?さくらさんもテニスするんですか?」
「うん、後輩に誘われて今日はたまたまね。」
「蘭!次、うちらの番だって!」
ギャラリーの奥から茶髪の女の子が走り寄ってきた。