第12章 新事実/ジン
企業の社員証にも似たデザインのそれは、実験室か何かのキーも兼ねていたようで裏面には磁気のラインが見える。
拾い上げて表に返すと、女性の写真と名前が確認できる。赤みがかった茶髪のその女性はまだ幼さの残る顔立ちをしていた。この顔、どこかで見たような…
「宮野志保、コードネームシェリー?」
名前の部分を声に出して読み上げると、ウォッカが勢いよく振り向いた。
「そ、その名前をどこで!?」
「え、これ…書類に挟まってたみたい。この人IDカード失くして困ってるんじゃないかな、もし会うことがあったら返してあげて。」
その剣幕に驚きつつも、ウォッカに表側が見えるように差し出す。
それを受け取って、ウォッカは目を伏せた。
「宮野志保ことシェリーは元々このAPTX4869の研究をしていたんです。「しかし途中で研究を中断して組織から逃亡した裏切者だ。」
ウォッカの言葉を聞き慣れた低音が遮った。
「アニキ!用事はもう済んだんですかい?」
「ああ、渡し忘れたデータがあったんでな。」
シェリーのIDカードはジンの手に渡る。
それを弄びながら、彼は舌打ちをした。
「だから、これはもう用済みだ。」
パキ、と彼の手の中のそれは小気味いい音を立てて真二つに折れ曲がった。