第1章 人助けのつもりが/ジン
背後に人の気配を感じ、手元の本から顔を上げる。
振り向くと、やはり彼が立っていた。鋭い眼光に思わず身が硬くなる。上から下まで観察するような素振りを見せたあと、ゆっくりと口を開いた。
「ここはどこだ」
「私のマンションです」
「お前は何者だ」
「ただのしがない医師です」
「なぜ俺を助けた」
「死にそうな人を見つけてしまったから…ですかね」
彼は理解ができないとでも言いたげに鼻で笑ったが、視線がテーブルの上の物を捉えると僅かに眼を見開いた。
「あ、あなたが着てた服は洗濯させてもらったのでポケットの中にあったものはそこに…」
「お前、これを見て何も思わなかったのか?」
改めてテーブルの上のモノを眺める。
財布、携帯電話、煙草やマッチと共に拳銃が2丁並んでいる。これ、とは恐らく拳銃のことを指しているのだろう。
「手当してる時に銃による傷だと気付きましたから。持ってても不思議はないかなと思いまして。」
段々と疑いの色が濃くなる彼の視線に、慌てて警察には通報してませんよ、と付け足せばまた鼻で笑われた。
「変わった女だ。名は?」
「さくらです。あなたは?」
「…ジンだ」
ジンさんね、そう呟くと呼び捨てで構わないと告げられた。
少しだけ緊張感が和らいだような気がした。