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[名探偵コナン]マティーニにお砂糖を

第9章 マジックの裏側/キッド


キッドが世間を騒がせた日から一週間。あの日キッドが盗んだ宝石は非常に精巧に出来た偽物だったようで、ご丁寧にも鑑定書付で持ち主に送り返されたらしい。
ニュースでは戸惑う大富豪の様子を伝えていた。


「そういえばちょうど一週間前のこのくらいの時間だったな。」

ベランダに出て煙草に火を点けた。空を見上げると、どうやら今日は満月らしかった。
ゆっくり紫煙を吐き出していると、急にぶわっと風が吹き上げた。

「こんなものは、貴女には似合わないですよ。」

風がおさまるとベランダの手すりには白いタキシードのキッドが立っていて。その手には私の右手にあったはずのタバコが握られていた。
彼はそれを灰皿に押し付けると、跪いて私の右手の甲に口づけを落とした。

「今宵の月は可哀想ですね。折角の満月も貴女の前ではその美しさが霞んでしまいますから。」

一輪の赤い薔薇を差し出される。自然なその一連の動作に言葉を失う。

「先日はどうもありがとうございました。これ、お返ししますね。」

彼が指を鳴らすと、受け取った薔薇が紙袋に変わった。中には、先日貸したワンピースが綺麗に畳まれて入っている。

「それでは、またいずれどこかでお会いできますことを。」

恭しく一礼をすると、ハングライダーの羽を広げ夜空へ飛び立っていった。



「何あれ、キザすぎるでしょ…。」
我に返って呟いた声はキッドに届くことはなかった。




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