第9章 マジックの裏側/キッド
「マジで助かりました、ありがとうございます。」
自分の家のベランダで怪我をした人間を見捨てることもできず、部屋に引き入れて簡単に手当をしてあげた。
左腕に巻いた包帯をさすりながら、彼はおずおずと切り出す。
「あの。壊した植木なんですけど…」
「ああ、そんな高いものでもないから気にしないでいいよ。」
「いや責任持って直しますから。」
そう言うと彼はベランダに出た。
壊れた植木にマントを掛け、パチンと指を鳴らすと完全に元に戻った植木がそこに現れた。
「すごいねぇ、さすが怪盗キッドさん!」
素直にそう褒めると、彼の表情がサッと曇った。
「どうして気付いたんですか?」
「どうしてって…まず普通の男性は高層階のベランダに侵入出来ないでしょ。で、このベランダの真正面にさっきまでキッドのいたビルがあって、キッドはハングライダーが得意だってことと今晩の風向きを考えると結論は出たかな。まさかこんなに若い少年だとは思わなかったけど。」
別に警察につきだそうなんて思ってないよ、と付け足せばあからさまにホッとした表情になった。
「ちなみに、このマンションに不時着したのって警察とかにバレてないよね?」
巻き込まれるの嫌なんだけど、と言うと彼はニカッと笑った。
「当然。天下の怪盗キッド様がそんなヘマするかってーの。」
しかし直後、彼の表情は一変する。
「あ。でも名探偵にはバレてるかもしんね…」
やべーなーと頭をかく。
彼の独り言から察するに、その名探偵のせいでうちのベランダに突っ込むことになったらしい。
そういえばベランダには萎んだサッカーボールのような物も一緒に落ちていた。