第9章 マジックの裏側/キッド
(マジックの裏側)
『ご覧くださいこのギャラリーの数!まもなくキッドの予告した時刻を迎えますが、その姿を一目見ようと多くの人々がここ杯戸ヒルズに詰めかけています。』
何気なく点けたテレビには、やたらにテンションの高いキャスターが映っており、その背景としてここからさほど遠くない高層ビルの1つである杯戸ヒルズが見える。そういえば数日前からキッドが予告状を出したと話題になっていたっけ。
『予告状の時刻になりまし…あーー今!キッドが現れました!テレビの前の皆様にも暗闇に白いマントがなびいている様子がご覧頂けるでしょうか!?』
テレビからは一際大きな歓声が上がり、キッドコールが聞こえてくる。
試しに何ヶ所かチャンネルを変えてはみたが、どの局もキッドの特集を組んでいるようで同じような場面が映るだけだった。
溜息を吐いてテレビのリモコンを投げる。
キッド特番のせいで連続ドラマが潰れてしまった。完全に逆恨みなのはわかっているがキッドを嫌いになりそうだった。
今日はミステリードラマの解決編だったのだ。犯人とトリックがわからないままもう1週間悶々と過ごせというのか。
『なんということでしょう!宝石と共にキッドの姿が消えてしまいました!』
テレビはキッドに宝石がまんまと奪われたことを報じている。
映像では白いハングライダーで闇夜を滑空するキッドを捉えていた。
『それではキッドが宝石と共に消えたシーンを振り返ります。』
テレビの画面がリプレイに切り替わったその時、ベランダにガシャンと何かが落ちたような音が聞こえた。
ベランダには室外機と鉢植えが1つあるだけだ。
上の階からの落し物だろうか、ゆっくりとカーテンを開ける。
ベランダを確認し、思わず一度カーテンを閉めてしまった。
そこにいたのは先ほどまでテレビに映っていた怪盗キッドその人だった。
再度ゆっくりカーテンと窓を開ける。
どうやら彼はうちのベランダに侵入した際に鉢植えで怪我をしたらしい。左腕をおさえて蹲っている彼の隣には粉々になった植木鉢の破片が散らばっていた。