第8章 ヘッドハンティング/黒の組織
するとパソコンからはやや焦ったような声が聞こえた。
『ああ、違うんだ、君に毒薬を作ってくれと言っているわけじゃない。』
話が見えてこなくて首をかしげる。さっきは毒薬の研究をしろと言っていたのではなかったか。
『APTX4869自体は完成しているんだ。問題はその解毒薬が無いこと。君にはその解毒薬を作って欲しい。』
解毒薬。それなら確かに人を殺すために手を貸すわけでは無いが…
即答できずに黙り込んでしまう。
『もちろん、開発に際して必要な設備や材料、資金の提供は惜しまないよ。助手が必要だというのなら、優秀な人材を用意しよう。他にも必要なことがあれば何でも言ってくれ。』
ラムの言うことが本当ならば破格の待遇である。大学病院の医師ならば喉から手が出るほど欲しい条件だ。
正直研究に興味はある。恐らく首を縦に振れば、あの薬の全容も教えてもらえるのだろう。
少々不安はあるが、結局知的好奇心が勝った。
「そうですね…では、休日のみの研究で良ければ、協力させて頂きます。」
今の病院を辞めるつもりは無いので、と付け加えればパソコンの向こうが笑ったのが分かった。
『それで構わないよ。解毒薬の完成が早いに越したことは無いが、本職が優先だろうからね。では追加の資料を送っておくから、よろしく頼むよ。また何かあればジンに言いつけてくれ。』
そう告げてラムからの通信は切れた。