第8章 ヘッドハンティング/黒の組織
奥の部屋へ入ると、テーブルと品のいい一組のソファーがあった。そのテーブルの上にパソコンが一台置いてあり、前のソファーにはジンが腰掛けていた。
ジンの隣に座るように促される。
ちょうどタイミング良くボーイがコーヒーを運んできた。
口をつけようとカップを手に取った時、目の前のパソコンが喋り出した。
『さくらさん初めまして。私はラムという。話はジンから聞いているよ。総合病院の医師で、薬学にも精通しているそうだね。さて、早速本題に入らせていただくと、見てもらった資料のAPTX4869については現在研究が滞っている状態でね、ぜひ君にその研究を引き継いでもらいたい。もちろんただでとは言わないよ、どうかな?』
「ち、ちょっと待ってください。こちらからも聞きたいことがあるんですけど…」
あまりにも突然のことに戸惑ってしまう。
『何だね?APTX4869の構造については私は専門でないので答えられることは限られるが…』
「その薬は何を目的としたものですか?私の不勉強で見た資料だけでは分からなかったもので…」
『ああそれは…「毒薬だ。」
ラムの言葉を遮ってジンが口を開いた。
「それも死後体内から毒の成分が検出されない、完全犯罪が可能な薬だ。」
ジンが銃を持っていたり、堅気の人間でないことは分かっていたつもりだった。
しかし不思議なもので、ここまでハッキリと隠さずに言われるとおかしなことを言っているとは思えなくなってくる。
確かにこの薬の研究には興味がある。しかしそれが毒薬だとなれば話は別だ。
「毒…?それは…申し訳ないですが、お受けできません。医師として人命を助ける立場ですので、それに反することに手を貸すわけにはいきません。」