第8章 ヘッドハンティング/黒の組織
仕事を終えて病院を出るとすぐにジンの車が待っていたが、近づくにつれ違和感を感じた。
車は確かにジンのものだが、中にジンの姿はない。代わりにサングラスをかけたガタイのいい男性が運転席に座っていた。
運転席の窓が開く。
「さくらさんですね?ジンの兄貴から迎えに行くように頼まれてます。どうぞ乗って下さい。」
この車がジンのものである以上、恐らく彼は嘘を言ってはいないはずだ。
言われるがまま、助手席におさまった。
車は街中を走っていき、やがてあるホテルの前で止まった。先日出来たばかりのこのホテルは部屋からの眺めが素晴らしいのだと話題で、予約が取れないことでも有名だった。
ここまで連れて来てくれた男性の後をついて歩く。エレベーターが止まったのはスイートルームが並ぶ階だった。
まさかこのホテルのスイートルームに入ることができるとは。
「兄貴、戻りやした。」
ドアをノックすると、ややあってドアが開いた。
「いらっしゃい、待ってたのよ。どうぞ入って。」
そこにいたのはジンではなくブロンドの美女で、見覚えのあるその姿に思わず声が出る。
「え、ベルモットさん?」
「2人とも知り合いだったんですかい?」
「ええ、たまに一緒に食事したりしているのよ、ね?」
「ジンと知り合いっぽい感じはしてましたけど、まさか呼ばれた先で会うなんて…」
部屋の入り口付近で立ち止まる。ついそのままここで話し込みそうになった時
「おい、いつまでそんな所で突っ立っている。」
奥からジンの声が聞こえた。
2人で顔を見合わせて苦笑し、奥の部屋へ続く扉を開けた。