第8章 ヘッドハンティング/黒の組織
「さっきの資料だが、」
並んで朝食を食べながら、ジンが口を開いた。
「少々特殊な薬だ。しかも作っていた研究者が組織を抜けてしまったために研究が滞っている。」
確かに、ざっと目を通した感じでは一般的に使用する薬に類似したものは見当たらなかった。
「薬に関するデータはこの資料の他にもあるんだが…それを見せればこの研究を引き継げると思うか?」
「全て資料を見たわけではないのでなんとも言えないけど…基本的には出来ると思いますよ。」
見たことない構造式だから少し時間はかかるかもしれないけど、と付け加える。
ジンは少し逡巡する素振りを見せた後、そうかと小さく呟いた。
◻︎
「じゃあ、仕事行ってくるね。鍵は今度来た時に返してくれればいいから。」
玄関のノブに手をかけて奥に向かって声をかける。
するとリビングからジンが顔を出した。
「今日の夜、時間はあるか?」
「特に予定はないけど…」
「会わせたい人がいる。終わる時間に病院まで迎えに行くがいいか?」
分かった、と返事をして家を出た。
ジンが会わせたい人って誰だろう。あの薬の開発に関わっている人だろうか、それなら是非話をしてみたい。