第44章 安息の時はまだ/K様へ
テーブルに戻ったものの和やかに食事の続きを、といった雰囲気ではない。
私達はさながら喧嘩でもした後のカップルのように無言でデザートを食べ終えると、レストランを後にした。
恐らく安室さんはジンが生きていて、私と繋がってると気付いている。
もしかしたら既に証拠を押さえていて、こうしている間にも自宅に警察が向かっているのかもしれない。
隣に立つ安室さんからの視線が痛かった。
2人きりのエレベーター。
最後まで会話はないまま静かに扉が開く。
ホテルのロビーに出ると、一つの人影が近づいて来るのが見えた。
見覚えのあるその姿は、日本を出国するときにベルモットの手によって作られたジンの仮の顔だった。
「よう。」
「ニック!驚いた。どうしてここに?」
手を上げて挨拶をした彼と軽くハグをする。
「さくらさん、この方は?」
「彼は友人のニコラス。マンションの部屋が隣同士なの。ニック、こちらは日本にいた時にお世話になっていた安室さん。」
どうも、と安室さんとジン扮するニックは互いに軽く頭を下げる。
顔を上げた安室さんの目が鋭くなったのを私は見逃さなかった。
「ニコラスさん、貴方どこかでお会いしたことありませんか?」
その安室さんの言葉に思い出す。
彼はベルモットの変装技術を知っているのだ。
私よりもジンとの付き合いは長いようだったし、些細な挙動から気付かれるかもしれない。
早く2人を引き離さなければ。