第44章 安息の時はまだ/K様へ
「ところで今回はどうしてシカゴへ?」
「組織の残党狩り、と言ったところでしょうか。実はある人の目撃情報がシカゴで複数寄せられまして。アメリカだからといってFBIに手柄を横取りされるのを黙って指をくわえて見ているわけにはいきませんからね。」
「へ、へえ、じゃあこの辺りに組織の元メンバーが潜んでいるってわけですね。ちょっと怖いな…。」
上手く逃げ果せた組織の一部が、口封じとばかりに元構成員を殺して回っているという話をジンから聞いていたからだ。
そんな連続殺人犯が近くにいると分かれば、外を出歩くこともままならなくなる。
「ああ、さくらさんの身に危険は及ばないと思いますよ。」
その言葉にどうしてですか?と首を捻った。
確かに私のコードネームはともかく、顔と本名まで知っている人は組織の中にはほぼいないはずだ。
だがデータには載っているわけで、安室さんがはっきりと否定の言葉を口にしたことに違和感を覚えた。
しかしそれは次の言葉で一掃される。
「ジンですよ、目撃情報があったのは。目つきの悪い銀髪で長身痩躯。トレードマークだった長髪は短くなっていたみたいですけど。」
安室さんの言葉にドクリと心臓が跳ねた。
「え、でもジンは屋上から落ちて死んだはずじゃ…?死体もあったと聞いていますよ。」
「確かにそうですが…そもそも僕はあの死体は偽者だったと睨んでいました。ジンとあのベルモットがそう簡単に死ぬとはとても思えない。」
まずい。わざわざここまで仕事で安室さんが来るなんて、偶然であるはずがなかったのだ。
背中を嫌な汗が伝う。すぐにジンに知らせなければ。
場合によってはシカゴを離れて、しばらくベルモットのところにでも身を隠していてもらおう。
ちょっとお手洗いに、と安室さんに断って中座する。
やや照明の落とされたロビーに出ると、柱の影でカバンから携帯を取り出した。
震える指先でジンの番号をタップする。
「どちらへ電話ですか?」