第41章 新たな居場所
同時に米花町からの引越しも決めた。
元より職場に近いという理由だけで選んだマンションだった。
病院を辞めた以上ここに住む理由などない。
問題は仕事だった。
意外とこの業界は狭く、学会やら何やらで頻繁に他病院の先生方との交流がある。
私の話などすぐに広まってしまうだろう。なにせ、あの病院にキッドが現れた時、宝石を守ったのが私だということを北海道の先生が知っていたのだから。
ゆえに、他病院が私の採用に二の足を踏むだろうことは容易に想像できた。
ちょうどその頃、学生時代に留学していた大学の教授から一通のメールが届いた。
“大学に新しい学科を作る事になって講師を探している。興味があったら話だけでも聞いてくれないか。”
意訳するとそのような内容で、当然のように私はその話に飛びついたのだった。
「聞きやしたよ、さくらさん、来月から准教授らしいじゃないですか。異例の早さだって話題になってますよ。」
「え、医療誌の端にちょっと載っただけなのにもう知ってるの。ていうかそういうのも読むんだね、意外でびっくりしちゃった。」
「情報収集の癖が抜けなくて。未だに片っ端から雑誌買っちまうんですよ。そろそろ置き場に困ってきてて。」
彼は頭を掻きながら苦笑する。
サングラスの無い素顔は未だに慣れなくて、きっと道でばったり会っても気付けないだろう。
「それよりさくら、貴女そんな朴念仁と一緒に暮らしてて息が詰まらない?嫌になったらいつでも私のところに来ていいのよ。」
「ありがとう、でもそう悪くも無いよ。こう見えて意外と気が利くし。今朝だってね、」