第41章 新たな居場所
そこで私の言葉を遮るかのように、おい、とやや不機嫌そうな声。
見ると、余計なことを言うなとでも言わんばかりにこちらを睨みつける視線があった。
「ふふ、貴方変わったわね。“ジン”だった頃よりなんだか柔らかくなったわ。」
前はすぐに銃口突きつけてたものね、と彼女は笑って、テーブルにコインを数枚乗せた。
「じゃ、私はこの後仕事だから。そうそう、来週からNYのファントム劇場で舞台やるのよ。よかったら観に来て。」
私の手に3枚のチケットを握らせると、そのまま背を向ける。
「ありがと、シャロン。」
またね、と肩越しに右手を挙げた彼女がコートをばさりと羽織ると、もう彼女の姿は人混みに紛れて見つけることが出来なくなっていた。
「じゃあ、あっしもそろそろ…。」
ぐっとコーヒーを飲み干して、彼も腰を上げる。
「うん、またね。今度は家にも遊びに来てよ、手料理また食べたいな。」
「それはもちろん。兄貴、また連絡しやす。」
「おい、その兄貴ってのはいい加減よせ。どこでFBIが目を光らせてるか分かったもんじゃねえからな。」
「そうでした、すいやせん。」
ぺこりと頭を下げると、彼も雑踏の中へ消えて行った。
「私達ももう行こっか。あ、帰りに本屋さん寄っていい?新刊が出てるはずなんだよね。」
「構わねえぜ。それと酒もな。ストックがなくなってたはずだ。」
「忘れるところだった。どうする、またワインにする?」
「そうだな…ジンとベルモットを買ってマティーニでも作るか。」
「いいね、決まり!」
日本にいた時より幾分か短くなった銀髪を追いかける。
コートのポケットに突っ込まれた腕に自分のそれを絡ませると、陽が傾きかけたシカゴの街へ足を踏み出した。