第40章 いつか、また
「本当にこれで元に戻れるのかしら?資料も全部処分しちゃって、数時間経ったら元に戻りました、なんて笑えないわよ。」
カプセルの袋を俺に手渡しながら、灰原は呆れたような声を出す。
「そいつは心配なさそうだぜ。」
灰原に見えるように、手紙の下の方を指で示した。
“この解毒剤は臨床試験済みなので安心してね♡”
それまでとは打って変わって、おちゃらけた字体で書かれたそれ。
目でなぞった灰原の眉間の皺が少し深くなる。
「臨床試験?一体何を使ったのかしら。」
「さーな。組織が存在してた頃なら実験台に使える人はたくさんいたんだろうし、解毒剤自体はあの事件より前に完成してたんじゃねーか?ここ一カ月のさくらさんは警視庁に通い詰めで薬を作ってる時間は無かったはずだし、たまたま俺らに渡すタイミングが今だったって考えるのが自然だぜ。」
他人の犠牲の上に完成した薬だなんて考えたくはねーけど、と頭を振ると灰原も同じように頷いた。
「とにかく、効果は確実って考えていいわけね。じゃあとりあえずこれは私が預かるわ。」
再びカプセルは灰原の手中に収まる。
「なんでだよ!?これで元の姿に戻れるんだぜ!?さっさと飲んで、」
「だからよ。あなたのことだから今晩にでもと思ってるんでしょうけど、考えてみなさい?突然江戸川コナンが消えたらどうなると思う?あの子達も悲しむだろうけど、きっと彼女も寂しがるわよ。」
彼女、蘭のことか。
そういえば先日、安室さんがポアロを辞めて遠くへ引っ越すという話を聞いてえらく落ち込んでいたっけ。
「…そうだな、元に戻るのはもう少し待つか。」