第39章 それから
「コナンくんと言えば、あの日屋上で姿を見たような気がするんですよね。」
パーティ会場では会ってたんですけど、と言うと少しだけ安室さんの瞳が細くなる。
「ああ、実はあの事件の影の立役者は彼なんですよ。ジンとベルモットをパーティに招待したのも、ホテルの屋上に2人を呼び出したのもみんなコナンくんのアイディアです。」
「コナンくんが…?」
「ええ。さくらさんがあのパーティに来たのは流石に想定外だったみたいですけどね。」
視線を足元に落とす。
考えたくない話だった。ジンとベルモット、それにウォッカの命を奪った原因がコナンくんにあったなんて。
いずれこうなることは分かっていたはずなのに、未だに気持ちの整理ができていない自分に嫌気がさした。
「それと、」
黙り込んだままの私をちらりと見て、安室さんは言葉を続ける。
「“安室透”は組織に潜入するための仮の名前だったので、今月いっぱいで終わりにする予定なんです。」
気付けば窓の外はよく見知った景色で。
安室さんの車は私のマンションの駐車場に静かに滑り込んだ。
「今後、もしどこかで僕のことを見かけても知らないふりをして下さい。きっとそれはさくらさんの知ってる安室透ではないので。」
助手席のドアを開けて差し伸べられた手を掴む。
「今までお世話になりました。お元気で。」
「安室さんも。もう一度一緒にテニスしたかったです。」
安室さんは少しだけ寂しそうな笑みを浮かべて片手を上げると、エンジン音を響かせて走り去って行った。