第38章 賽は投げられた
「ちょっと待ってください。」
踵を返してエレベーターへ向かおうとした私を安室さんの声が引き留めた。
そうだった、ここで全てを知っている安室さんが私とジンの関係を話してしまえばお終い。私も組織の仲間として拳銃の輪の中心に押し出されるのだろう。
ベルモットの瞳が僅かに細められる。
テメェ、とジンが再び舌打ちをした。
「確かに彼女は無関係だと思いますが、この場に居合わせてしまった以上すんなり帰すわけにもいかないでしょう。彼女の身に危険が及ぶ可能性もありますし。」
驚いた。
それは私だけではなかったようで、ジンとベルモットの瞳にも驚愕の色が差す。
FBIの女性は、ふざけないでよ、と安室さんに食ってかかろうとしたがそれは赤井さんによって制止された。
「降谷くん、それはどういうことか分かっているのか?」
「ええ、勿論分かっていますよ。彼女は我々警察が保護します。…風見、ちょっと。」
安室さんが眼鏡の男性を呼んで何事か耳打ちをする。
次の瞬間、ベルモットが安室さんの手を振り払って屋上の手すりに飛び乗るのと、私の頰の真横を何かが通過したのはほぼ同時だった。