第38章 賽は投げられた
つう、と頰を生温かい感触が伝う。
何気なく触れた右手が赤く染まって、頰が切れたことを理解した。
顔を上げると、未だ細く煙の上る銃口をこちらへ向けたまま屋上の手すりに立つジンと目があう。
「テメェら無能な警察とFBIがチンタラやってるからだぜ。」
ニヤリ、と彼の口角が上がる。
何度も見たはずのその表情なのに、何故だか今は嫌な予感がした。
「俺らを捕まえたきゃ、地獄の底まで追って来るんだな。」
そこからはスローモーションのようだった。
ジンはポケットから1つのカプセルを取り出すと、あっと思う間も無くそれを口に放り込んだ。
ごくりと喉が上下して、すぐにジンの顔が歪む。
口からも苦しげな吐息が漏れて、ゆっくりとその体は夜の闇に倒れ込んだ。
ベルモットも同じくカプセルを口にして、その後を追うようにドレスの裾を翻して夜空に身を躍らせる。
数人の警官が慌てて駆け寄ったその直後、けたたましい轟音とともに下から火柱が上がって、車が爆発したぞ!と半ばパニックのような悲鳴が聞こえてきた。
呆然と立ち尽くす私の横を抜けて階段を駆け下りて行く警察、FBIの面々。
その中に見覚えのある小さな背中が紛れていたような気がしたが、声をかける気にはならなかった。
屋上に残されたのは私と安室さん、赤井さんの3人だけ。
「くそっ!」
安室さんが鉄塔を殴る音が鈍く辺りに響いた。