第38章 賽は投げられた
どうやら深く考え込んでしまっていたらしい。私は背後から近づく足音に気付くことができなかった。
「盗み聞きとは、あまりいい趣味とは言えないな。」
その声にはっとして振り返るとニット帽を被った長身の男性。
「シュウ!どうしてここに!?」
「柱の影で息を潜めているウサギを見つけてしまったのでね。」
「それに貴女は…!」
1人の女性がこちらへ歩み寄ってきた。
この2人を私は知っている。そう、あの日埠頭にいた赤井さんとFBIの女性。
もうこうなった以上隠れていても仕方がないだろう、ゆっくりと前へ進み出る。
この場にいる全員の視線が私に集まる。もちろんジンとベルモット、安室さんも。
ジンの舌打ちがはっきりと聞こえた。
「誰だ、その女は。」
暫しの沈黙の後、真っ先に口を開いたのはジンだった。
驚いて顔を上げると、話を合わせろとでも言うかのようにジロリと睨まれる。
「はぁ!?何を言ってるの?この人もあなた達の仲間でしょ?だってあの時、」
「知らねえモンは知らねえんだよ。おい女、さっさとこの場から失せやがれ!」
女性の言葉を遮るようにしてジンは声を荒らげた。
ガチャリと彼の左手の愛銃がこちらを向く。
ジンに銃口を向けていたスーツの男達がにわかに慌て始めた。
おそらくジンは私を逃がそうとしてくれているのだ。
自分達とは無関係であることを強調するためにこうして私に銃口を向けている。
それならば。私も知らないふりを通してこの場から去るべきだ。