第5章 デート、のようなもの/ジン
無事にドレスも購入しあとはホテルへ向かうだけ、という段階でジンの携帯に着信が入った。
電話の相手に今向かっている、と伝えるということは会場で待ち合わせでもしているのだろうか。そういえば私はジンの交友関係はおろかプライベートなことは何も知らないな、とぼんやり考えていたところだった。
「フン、面白いことする奴がいるもんだ…今回は引くか。…なにまた機会はあるさ。あぁ、悪運の強い奴だ。」
不敵な笑みを浮かべてジンは通話を切った。そして交差点に差し掛かったところで車の進行方向を反転させた。
「今日のパーティーはキャンセルだ。悪いが急用が入った。」
先ほどまでとは空気感がまるで違う。話しかけるのも憚られるような緊張感に、私はただ黙って座っていることしかできなかった。
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私のマンションの前に車をつけると、先程の店で購入した紙袋を手渡された。
「これは自由に使え。今日は振り回して悪かった。」
「あ、いや私こそ朝はすみませんでした。」
「この埋め合わせは後日必ずする。」
私がドアを閉めるとあの独特なエンジン音を響かせて車は遠ざかっていった。
「ああ、嵐のような1日だった…。」
ちょっと早いけどゆっくり風呂にでも入ろう、とぐっと伸びをしてエレベーターのボタンを押した。