第5章 デート、のようなもの/ジン
手にしていたのは深いネイビーのロングドレス。胸元には光沢を抑えたビジューやパールが散りばめられていて他のどのドレスよりも目を引いた。
「素敵!そうですね、これ試着してみようかな…」
「でしたら、その間に合わせるパンプスとバッグもご用意しておきますね!」
促されるがまま試着室に入る。ドレスに足を通すと、あつらえたようにピッタリとフィットした。
そろりと試着室のカーテンを開けると笑顔の店員さんがドレスと同色のパンプスとシャンパンゴールドのバッグを持って待っていた。
とても良くお似合いですよ、と褒めてくれる店員さんに会釈をし、ちらりとジンを見る。
目があうとこちらへ近づいて来てくれた。
「コレ、どう…かな」
「ほぉ…馬子にも衣装だな」
どういう意味だと言いたくなったが、ジンの表情がいつもより優しそうに見えたため思い止まった。
「じゃあこれにしようかな。お願いします。」
店員さんを呼ぶと、元の服に着替えるべく試着室へ戻った。
着替えて出ると、先程のドレスは既に包まれてジンの手元にあった。
「行くぞ。」
そのままお店を出て行こうとする。
慌ててジンのコートの裾を掴む。
「あの、お会計は?」
「もう終わっている。」
「そんな、私自分で…」
「女に金を出させる趣味はねぇよ。」
そう言われると引き下がる他ない。
ありがとうございます、と小さくお礼を言った。