第5章 デート、のようなもの/ジン
(デート、のようなもの)
「俺はきちんと連絡を入れたつもりだったが。」
「全くもってお詫びのしようもございません。」
元々鋭いジンの目つきが、まるでこのまま殺人でも犯しそうなくらいキツくなっている。
その原因を作ったのは紛れもなく私で、ただただ謝罪の言葉を口にすることしかできない。
事の発端は今朝に遡る。
『今日休みだったな?2時間後に迎えに行く。』
朝から携帯のコール音で起こされ、相手を確認しないまま出た私も悪かったと思う。
一方的に電話口で話されて、何と返事をしたかさえ覚えていない。
今日から3連休。頼んだわけでもないが最近連休取らせてあげてなかったから、と上司がシフトを調整してくれた。
この3連休は中々手が出せなかった長編小説を読破しようと決めて、昨晩はつい夜更かしをしてしまったのだった。
朝の電話で1度は起きたものの、携帯を手にしたまま二度寝をしてしまったせいで夢の中の出来事だと思い込んでしまっていた。
そして電話から2時間後の今、”迎えに来た”というジンに寝ぼけ眼で応対してしまったところ冒頭の状態である。
言い訳をさせていただけるならば、せめて前日に連絡をもらえていればこのような結果にはなっていなかっただろう。
不機嫌そうに煙草を燻らすジンの背中に毒付いた。