第4章 名探偵は/ジン
「上がっていきます?今日は何もおもてなしできないですけど。」
ジンは私をエントランス前に降ろすと、マンションの駐車場に車を滑り込ませる。駐車場つきの物件を選んでおいてよかった。
「朝飯まだだろう。茶くらい淹れてやる。」
部屋に着くとジンは私に紙袋を差し出し、キッチンへ向かった。
手渡された紙袋は有名なパン屋のロゴが印刷されていた。
開店前からすごい行列で並ばないと絶対に買えないんだ、と後輩達が話していたのを思い出す。ジンが律儀にも並んで買ったのかと思うとつい頬が緩んだ。
コーヒーカップを持ってキッチンから出てきたジンに不審な顔をされる。
何でもないですと誤魔化してテレビを点けた。
サンドイッチの包装を半分剥がしたところでかぶりつく。
後輩達が噂するだけのことはある。確かにそこらのパン屋のサンドイッチとは一味違う。よく見ると切られた断面も色鮮やかで美しかった。
「私、夜勤明けなのでこれ食べたらシャワー浴びて寝たいんですけど。」
口の端に付いたマヨネーズを指で拭ってコーヒーカップに手を伸ばす。
「ほー、それは暗に誘ってるのか?」
ニヤリと笑ったジンの右手がすっと太ももを撫でる。今ほど、スカートでなくて良かったと思った時はない。
「どうしてそう解釈するんですか!そんなのあるわけないじゃないですか!」
パシンとその手を叩くと、冗談だ、と鼻で笑われた。