第26章 温泉旅行/安室
「大丈夫です、容体は安定しました。まだ意識は戻っていませんが、じきに目を覚ますでしょう。応急処置が適切だったので脳へのダメージもありません。」
病院の廊下で奥様がホッと安堵の息を吐くのが分かった。
よかったですね、と固く握っていた手を取る。
「本当に、本当にありがとうございました!なんとお礼を申し上げたらいいか!」
うっすらと目尻に涙を浮かべて何度も何度も頭を下げられた。
気にしないでください、ご主人が無事で良かったです、と私も同じ台詞を何度繰り返したことだろう。
わざわざ病院の玄関まで見送りに出て来られて、車で病院を後にするまで深々とお辞儀をして下さった。
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「お疲れ様でした。」
車の中で安室さんがココアを差し出してくれた。
「ありがとうございます。すみません、付き合わせてしまって。夕飯も食べ損なっちゃったし。」
プシュ、と缶の口を開けるとほんのりと甘い香りが鼻腔をかすめた。
「いいんですよ。それにお医者さんの顔してるさくらさん、カッコ良かったですよ。」
ふふっと安室さんは笑う。
「あ、見てください。」
安室さんが前方を指差す。
「朝日です。日の出なんて久しぶりに見ました。人助けしていいことありましたね。」