第26章 温泉旅行/安室
都内から車を走らせることおよそ3時間。
温泉街の中の小高い丘の上、一際目立つ大きな建物が今回の旅館だった。
広々としたロビーには至る所に季節の花が生けられており、その中心にある池から流れ出る小川には大きな錦鯉が何匹も泳いでいる。
中庭に視線を移すと、そこには荘厳な滝が目を惹く素晴らしい日本庭園が広がっていた。
「山門様、お待ち申し上げておりました。」
名前を呼ばれて我に返った。
お部屋へご案内致します、と上品そうな仲居さんが荷物を持ってくれる。
慌てて立ち上がると足元に段差があったことに気付かずよろけてしまった。
「おっと、大丈夫ですか?」
すかさず、安室さんが手を差し伸べてくれる。
「あ、ありがとうございます。」
思わぬところで近づいた顔に、急に恥ずかしくなって俯いてしまった。
「お足元、どうぞお気をつけください。」
その仲居さんの言葉も耳に入らないくらい、自分の心臓の音がうるさかった。
「こちらのお部屋になります、どうぞ。」
案内された部屋は6階の角部屋だった。窓から見下ろす里山に思わず溜息が出る。
予約のために電話をした際、部屋は選べないと言われていたのだ。まさかこんなに広いお部屋にしてもらえるとは!
「ご夕食は3階の藤の間にて、明日のご朝食は2階の桔梗の間にてご用意致しております。それではごゆっくりお過ごしくださいませ。」