第4章 名探偵は/ジン
(名探偵は)
病院の玄関を出たら土砂降りでした。
「聞いてないよ…今日はカサいらないんじゃなかったの…」
思わず独り言が漏れる。
夜勤明け、清々しい朝日を全身に浴びて気分良く帰宅…のはずが大粒の雨が地面に叩きつけているこの現状。
こういう日は車通勤の同僚が羨ましくなる。
「院内の売店でカサって売ってたかな…」
ここで油を売っていても仕方がない。一先ず中に戻ろうと踵を返そうとした時だった。
聞きなれないエンジン音と共に入口の目の前に見たことない外車が横付けされる。
古いポルシェ…?患者さんだろうか。
ここは職員用の裏口にあたるので、正面入口に誘導しようと運転席に近づいた。
「乗ってくか?」
見覚えのある銀髪と鋭い目つきがそこにあった。
「ジン⁉︎どうしてここに?」
驚きのあまり大声をあげてしまった。慌てて迷惑にならなかったか周りを見渡す。幸いなことに診察時間前ということもあり、近くに人はいなかった。
「なんだ、乗らねぇのか」
「じゃあお言葉に甘えて」
車内に雨が入らないように素早く乗り込む。
「私の退勤時間知ってたんですか?」
「昨日家に行ったらお前は留守で、シフト表がテーブルにあった。」
「あーそういえば出しっぱなしだったかもしれないですね。」
「外は土砂降りなのに、傘立てには傘が残ってた。」
「そう、カサ忘れて困ってたとこだったんですよ!あ、もしかしてだから迎えに来てくれたとか?」
すごい!名探偵みたい!と褒めるとちょっと複雑そうな顔をしていた。