第25章 太陽の欠片盗難事件/キッド
それから2日、病院内は今まで通りとはいかずともそれなりに静けさを取り戻した。
職員一同ホッと胸を撫で下ろし、事務長からはそれはもう大変な勢いでお礼を言われた。
あのままでは私の胃に穴が開くのも時間の問題でした、と聞こえたのは気のせいではないはずだ。
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「あと30分ですな。」
ロビーの窓から見える月は既に細い三日月になっている。
入口の外では、中へ入ろうとするテレビカメラとそれを押し留める警察の攻防が激しさを増していた。
くい、と白衣が引っ張られる。
下を見るとコナンくんが耳を貸して、とジェスチャーをしていた。
彼の背に合わせてしゃがみ込む。
「キッドは変装が上手いんだ。もしおかしいと思う人がいたらすぐ教えてくれ。」
了解、と頷いて立ち上がると胸ポケットでPHSが震えた。
後輩に任せてこちらへ来てしまったが、救急で何かあったのだろうか。
人の輪から少し離れた柱の陰で通話ボタンを押す。
「先輩、今から急患が来るらしいんです。交通事故らしくて。こっち戻って来れますか?」
「分かった、すぐ行く。」
院長に一言告げてロビーを離れた。
キッドの為にここ数日は患者の受け入れも最小限にしていた為、救急センターへと続く廊下は静かだった。
ふと角を曲がったところ、仮眠室の扉が開きっぱなしになっているのに気がついた。薄暗い廊下にその部屋の光はとても目をひいた。
「誰も使ってないなら電気消さないと。」
部屋を覗き込んでみたが使われている痕跡はない。ベッドに掛かったシーツも皺一つついていない。
電気を消して早く後輩のところへ行こう、そう思って電気のスイッチに手をかけた時だった。
「お久しぶりです、マドモアゼル。」
背後から掛けられた声に振り向くと、そこには白いシルクハットとマントを身に付けた怪盗キッドが立っていた。