第23章 予定外のデート/沖矢
「あ、昴さん喫煙者なんですね。意外、こんなにヘビースモーカーなのによく我慢していられますね。」
何となく変な空気になってしまったのを払拭しようと、たまたま目に付いた灰皿を指差した。
山盛りになった吸殻は彼がかなりの頻度で喫煙していることを表してはいるが、私は昴さんが煙草を咥えているところを見たことがなかった。
「人前では吸わないようにしているんです、お恥ずかしい。」
昴さんはその灰皿を本の山の陰に隠すように移動させた。
「今は喫煙者に厳しい世の中ですからね。嫌煙家の方も増えましたし喫煙所の無い店も多い。吸いたくならないと言ったら嘘になりますが、それなりに吸わなくてもいいくらいには慣れました。」
「駅なんかの喫煙所の数も減りましたよね。病院も完全禁煙ですし。」
分かります、と頷くと意外そうな顔をされた。
「さくらさんこそ喫煙をするイメージがないのですが、吸われるんですか?」
「嗜む程度です。お酒を飲んだ時とか、イライラした時とか。意外と医療関係者って喫煙者多いんですよ。ストレス溜まるからですかね。」
禁煙外来の医師が喫煙者とか笑い話にもなりませんよね、と言うと何とも言えない笑顔で返された。
◻︎
「今日は何から何までありがとうございました。今度は私の家にも遊びに来て下さい。」
気付けば窓から見える空は藍色に変わっていた。
昴さんの車でマンションまで送ってもらう。
車から一歩降りたところで、今日何度目かになる礼を言った。
「もちろん、喜んで。そういえば彼の秘密、何か進展はありましたか?」
彼の秘密、とはこの間のホームズ展の時のコナンくんのことを言っているのだろう。
しかし約束した手前、例え昴さんでも私の口から言うわけにはいかない。
「秘密です。守秘義務がありますので。」
コナンくんと約束したので、とニッと笑った。
「それは…妬けちゃいますね。さくらさんと秘密を共有出来るなんて、コナンくんは幸せ者だ。」
何言ってるんですか、その言葉が届く前に昴さんの車はゆっくりと動き出して大通りへ入っていった。