第6章 昇る竜
家具もなにもない部屋に、革靴の音が響く。
俺は矢崎の横にしゃがむと、額に貼り付いた髪を上げてやった。
怯えた目で俺を見上げる矢崎には、あいつの面影はなかった。
「お前…母親に似たのか」
「え…?」
「似てねえな。父親には」
「あ…あんたが親父を殺したって…本当なのか?」
「お前、確認もしないで俺を弾きに来たのかよ」
懐からタバコを取り出した。
相葉が火をつけていく。
「あんな…?なんで俺がお前の親父殺したか、教えてやろうか?」
「やっぱり殺したんじゃねえかよ!」
喪服から、線香の匂いが漂ってきた。
「お前の父親な、大野組の幹部だったんだぞ」
「それがなんだよ」
「俺は大野組の組長の息子だ」
「だからそれがなんだってんだよ!」
タバコを床に押し付けた。
「俺はな、お前の親父にケツ掘られてたんだ」
「…え…?」
「小学生だった。初めて掘られたの」
「う…嘘だろ…」
「嘘じゃねえよ。何年掘られたと思ってんだよ」
もう一本タバコを取り出した。
相葉が火をつけてくれないから、草彅が着けてくれた。
「おかげでケツの穴、ガバガバなんだけどよ。どうしてくれんだよ」
「嘘だ…親父がそんなこと…」