第6章 昇る竜
通夜の席で、俺は再び挨拶をした。
喜多川のトップとして、挨拶をするのだから当然客人たちの態度も変わった。
快く思っていない連中も、これで公式に俺の立場が明確になったことで、嫌々ながらも態度を改める。
祭壇の写真の親父は、そんな俺を見て笑ってやがる。
いつも俺が困ってる姿見て、ニヤニヤしてたなあのクソジジイ。
全くよ…困ったジジイだ。
通夜が終わると、外で十重二十重に屋敷を囲んでる連中に呼ばれた。
裏の通用口から出ると、立派なベンツが停まってた。
黒スーツの男が、俺だけ車の中に入れた。
相葉と小杉が外で立っている。
「君が…ずいぶん若いんだね」
「ええ。タバコ、吸っていいですか?」
どうぞと手で示されて、灰皿の位置を教えてくれる。
「で?なにかご用ですか?」
「…いや、喜多川の親父さんには世話になったんでね。次の頭にも挨拶をしておこうと思ってね」
「じゃ、焼香にきてくれれば良かったのに」
「…まあ、その辺にしとこうか。大野智さん」
「…今は喜多川智だ」
「ほう…」
「新しい組織は来月できる。組織図はそんとき渡す」
「話が早くていい。これからも頼みますよ。総長殿」
「…こちらこそ。遠藤警視正殿」
タバコをもみ消して、車を出た。