第22章 folder.6
「いいえ…なにも。なんかあったんですか?」
「いや…矢崎の叔父貴からボンに話があったみたいだから…」
「えっ…」
松本の顔色が変わった。
「今日、ですか…?」
「ああ…」
「智さんは…どこに」
「え?」
「アトリエですか?」
「おい…松本」
「部屋ですか?」
焦ってリビングを出ていこうとする松本の腕を掴んだ。
「なんだよ…どういうことなんだよ…矢崎の叔父貴がなんなんだよ?」
「…それは…」
目を逸らす松本に、思わず嫉妬した。
「何を知ってる…」
「い、いえ…」
「言えよ」
「俺も…ちゃんと知ってるわけじゃない…」
「え?」
「それに」
キッと松本は俺を睨んだ。
「智さんがあんたに言ってないことなら、俺の口からは言えない」
「なんだと…」
「俺は…あの人に命を救ってもらった。だから俺はあの人を絶対に裏切らない」
燃えるような目だった。
松本…おまえも…
「そう、か…」
俺が大野に来るまでの歳月を恨んだ。
智に出会うまでの歳月を恨んだ。
松本と智の間に横たわる時間の長さを羨んだ。
「行けよ…」
「はい」
背中を向けると一直線に駆け出していく。
まだ…だめだ…