第21章 folder.5
「いや…なんでもねえよ…」
笑ってはいるけど、明らかに様子がおかしい。
そのまま着替えるのを手伝って、一緒に座敷に向かう。
「トイレ…行ってくる」
ぼんやりとしたまま、ボンはトイレに入っていく。
本家はこういう盃事が多いから、トイレも大きくてちょっとした施設並みだ。
一緒に入っていって、俺も隣で用を足した。
手洗いでボンと並んで立っていると、いきなりボンは顔を洗い出した。
黙って懐からハンカチを出して待っていると、それをひったくるようにボンは持っていった。
「ありがと」
くしゃくしゃに拭いたハンカチをそのまま返された。
やっぱり…なんかおかしいな…
「翔…」
洗面台に向かったまま、ボンは俺に声をかけた。
「なんでしょう?」
じっと鏡越しに俺の顔を見ている。
「…なんでもない…」
「ボン…?」
スタスタとボンはあるき出した。
「ちょ…」
慌てて後を追うけど、走るみたいなスピードでボンは行ってしまう。
呆然と後ろ姿を見送りながら、頭はフル回転していた。
きっと何かあったはずだ。
いや…絶対、だな。
ぎりっと親指の爪を噛む。
やっとここまで出世したのに…
それでも俺はまだ、智には全部曝け出してもらえないのか。