第4章 傷だらけの翼
それでも俺は止まれないのに…
姐さんが溜まりを出て行くと、暫く誰も口をきかなかった。
誰もが、親父の死や姐さんが引退くことで起こる、この先のことを考えているに違いない。
「兄貴たち…」
一斉にこちらをみる、幹部の兄貴たち。
一様に目の中に何か考えている色がある。
「これから、頼んます」
畳に手をついて頭を下げると、拍手が起こった。
喜多川一家の勢力図が変わる…
もしかしたら翼竜会へも影響が出るかもしれない。
近藤の兄貴と東山の兄貴が出て行かないことは、俺にとって大きな戦力だ。
そして、俺と小杉が居なくなった後…跡目に困らない。
「では、これから正式に…総長というわけですね…」
「いや、親父が死ぬまでは派手なことはできねえ。だが、姐さんも居ない今、俺、喜多川に居たほうがいいかもな…」
「移る準備、しておきましょうか」
「頼む」
後部座席でライターで俺のタバコに火をつけながら、相葉がいろいろ算段している顔をした。
紫煙を吐き出しながら、あのオンボロビルでの日々を思い出していた。
あのビルを出る日がくるなんて…思ってもみなかった。
もっと平穏な日々が、俺には待っていると信じて疑っていなかったから…