第4章 傷だらけの翼
姐さんはチラと小杉の顔を見た。
脂汗を流しながら、小杉は事の成り行きを見ている。
「あんたたちを喜多川から出そうというのは、なにも強制じゃない。あんた達が出て行かないというなら、それでいい。智のこと、盛り立てていっておくれだね?」
「ああ。姐さん、そのつもりだ」
「俺には異存はない」
「小杉」
「はっ…はい…」
「あんたにも、異存はないね?」
「も、もちろんです!」
姐さんはほっと息をつくと、俺の顔を見た。
「智は、若いだけに気の短いところがあるから…皆、頼むよ…総長に代わって、お願いする」
姐さんは畳に手をついて頭を下げた。
「姐さん…顔を上げてください…」
東山の兄貴が姐さんの肩に触れた。
「今までご苦労様でした…姐さん…」
姐さんは親父の世話をするため、結婚もしないでここまできてしまっていた。
一度、結婚して家を出たが、離婚して戻ると、そのまま喜多川を出ることはなかったのだ。
ずぶずぶと極道に浸かって居たのは、ガキの頃から世話になった親父への恩返しだったのかもしれない。
「じゃあ、智…いや、総長代理。後のこと、お願いしますよ?」
「ああ…景子姐さん…今まで、世話になりました」
俺にとって母親のような人だった。
何もかも先に決めて…ばかだなあ…姐さん…