第21章 folder.5
若頭の引退式が終わると、すぐに新幹部の役固めの盃式に移った。
正面に座る大野守組長の前に、新幹部が勢揃いした。
俺もその末席に連なった。
俺達の前には、新しい若頭のボンが一人で座った。
城島さんが立ち上がると、座敷に響き渡る声で盃式の始まりを告げた。
粛々と盃式は進行していく。
まずは大野組長と新若頭のボンとの固めの盃が交わされた。
それが終わると、順番に新幹部と組長との固めの盃が交わされる。
俺の番になって、組長の前の座布団に進み出た。
立会人の松岡の叔父貴から、盃が三宝に乗って差し出された。
「ありがとうございます」
盃を受け取って、組長にそれを差し出すと酒を注がれた。
「櫻井…」
大野組長が俺に声をかけた。
「智のこと、頼むぞ」
柔らかい声音だった。
「は、はいっ…」
盃の酒を飲み干すと、懐紙で包んで懐にしまった。
そのまま下がると、席に戻った。
その後、固めの盃を場内に回され、全員が酒を飲んだところで盃式は終わる。
最後にボンが進み出て、組長に挨拶をした。
「この度は大きなお役目を頂き、有難うございます。未熟者ではございますが、我々一同精一杯努めさせていただきます」