第21章 folder.5
「智…?」
「ん…?」
「大丈夫か…?」
「…なにが?」
にっこりと、何かを振り払うように智は笑った。
「俺なんかよりも…あいつらだよ…」
ぎりっと手を握ると、それをすぐ開いて手のひらを見つめた。
「翔、気づいてた…?」
「え?」
「二宮さ…俺のこと殴るとき、全然力が入ってないんだ…」
「え?」
「あいつね…俺に殴られたがってんだよ」
「なんで…」
「さあ…でもひとつだけ言えるとしたら…」
また智の顔に影が走る。
「あいつ、死にたがってる」
死にたがってる…
あいつもまた、親に打ち付けられた楔を外すことができずにいるのか…
「翔?どうした…?」
身体が勝手にブルブル震えだした。
「翔?」
「なんでもない…」
「なんでもないって顔色かよ…青いぞ?風邪でも引いたか?」
「ちょ、ごめん…」
急激な吐き気に襲われて、トイレに駆け込んだ。
胃の中の物を全部出すが、まだこみ上げてくる。
吐くものもなくなってふらりと立ち上がってトイレを出ると、智が待っていた。
「翔、医者いこう?」
「いや…大丈夫だから…」
「でもっ…」
「ほんとに…大丈夫だから…」
目の奥がチカチカする。
俺って、こんなに弱いやつだっけ…