第21章 folder.5
相葉も松本も、親に売春を強要されていた。
そんな過去、二人には見えなかった。
「やっぱり、俺…まだまだ浅い…」
「何言ってんだよ」
「いや…あの二人にそんな過去があったなんて、俺、本当にわからなかった」
「…翔には、身近にそういうやつが居なかったんだからしょうがないよ」
マグカップからコーヒーを飲み干すと、ボンは少し考え込んだ。
「潤の様子が気になるな…」
少し俯いていたがすぐに顔を上げた。
「あいつが暴れたとこ、みたことあるだろ?」
「あ、ええ…」
何度か松本は、狂犬のように暴れまくったことがある。
なにがスイッチになっているのかわからなかったが、突然爆発したみたいに、誰かれ構わず殴りつける。
俺が大野に来てから、何度もそういう光景を見ていた。
「親からされたことを思い出すとああなるんだ…」
俺の手を振り払った、あの目…
怯えや恐怖が入り混じった目だった。
「治してやりたかったけどな…」
少し切ない目をして、ボンは遠くを見た。
「俺じゃ無理だったなぁ…」
「そんなこと…」
「俺があいつを引き取ったんだから、守ってやりたかったんだけどな…」
その時、智の顔によぎった影…
言い知れぬ闇を感じた