第21章 folder.5
「離せよっ…」
もがいて俺の腕から逃れようとする。
今日の智は様子がおかしかった。
「どうしたんだよ…智…」
「いいからっ…離せっ…」
無理やり俺の身体を起こすと、グラスを取って一気に飲み干した。
「俺は…一生、ヤクザから逃れられないんだ…」
「智…」
「逃げれるやつは…逃げたほうがいいんだ…」
「なんかあったのか…?」
答えず、ボトルからドボドボとウイスキーを注ぐと、また一気に飲み干した。
「智っ…そんな飲み方だめだっ」
グラスを取り上げると、智は泣き出した。
「翔…今なら間に合う…」
「え?」
「役付になっちまったら…簡単には足を洗えなくなる…だから…」
「おい…どうしちまったんだよ!?」
「翔っ…」
ぎゅっと智が抱きついてきた。
「翔は汚れちゃいけないっ…!」
「智…?」
小刻みに震えるその身体をぎゅっと抱きしめた。
「…何があった…?」
「……なんでもない……」
そんな訳あるか。
そうは思うけど、こういうときの智は問い詰めても絶対に口を割らない。
ぎゅっと抱きしめて背中を擦っているしかないんだ…
「俺は…どこにも、いかない」
「翔…」
「いかないから…」