第18章 folder.2
相葉の兄貴は人の良さそうな笑みを俺に向けた。
「お前、なんでこの世界入ったの?」
それは、ボンが俺にはもう二度ときいてこない質問だった。
なぜか初めて会った日から、この質問はしてこなくなった。
答えられないでいると、兄貴はふっと笑って茶を湯呑みに注ぎだした。
「ま、言えないんなら聞かないけどさ…あんた、勿体無いなって思うよ」
「え?なんで…」
「なんつーか…薄汚れてねえもん。俺みたいにさ」
「そんなことありませんよ」
俺は、汚れきってる…
人一人、死なせておいて、平気で生きてる…
それにあんな親の血が流れてるんだ。
俺なんて汚れきってる。
「櫻井…」
「はい」
「戻れるんなら、戻ってもいいんだぜ?お前、まだ盃貰ってねえんだろ?」
「…もう、戻れませんよ…戻る家もないし…親も兄弟も居ませんから…」
兄貴は手を止めて俺を見た。
まっすぐに。
なんだか照れくさくなって目を逸らした。
「そっか…俺と一緒だな…」
そう言ってまた笑って茶を注いだ。
「ならさ、お前、死ぬ気でボンに付いてろよ?」
「えっ?」
「ふわふわしてっと、ボンに見捨てられるぞ?」
釘を差すように言うと、兄貴はお盆を持って台所を出ていった。