第17章 folder.1
思わずボンをじっと見ていると、目があった。
「…ああ…これ、俺のおふくろ。今日、命日なんだ」
「え?」
今日は、ボンの誕生日だと聞いた。
誕生日なのに…おかあさんの命日なんだ…
だから、出かけないのかな…?
俺は立ち上がると、丸いすにマグカップを置いてボンの隣に立った。
写真立てがあるだけだったけど、手を合わせておいた。
目を上げてボンを見ると、驚いた顔でこっちを見ていた。
「え?なんか俺、変なことしました?」
「いや…そんなことしたの、おまえが初めてだよ」
くっくと笑うと、ボンは冷めたコーヒーに口をつけた。
「入れ直してきましょうか?コーヒー」
「いや、これでいい」
そう言って窓辺に近づいて、庭を眺めた。
「お前、免許あるの?」
突然話しかけられて、ちょっとびっくりした。
「あっないです」
大学に入ってから、自動車学校に通おうと思っていたから、まだ免許は取っていなかった。
「そっか…じゃあ、自動車学校通えよ」
「えっ?」
「そのうち、俺の運転手をして貰わなきゃならないから…」
そう言いながら長い前髪を掻き上げた細い手首に、華奢なシルバーのブレスが見えた。
それは、とてもボンに似合っていた。