第17章 folder.1
「櫻井」
「はい」
「コーヒー頼むわ。2つ」
「はいっ」
なんで2つなんだろうとか、そんなこと考えもせずにリビングに戻って城島さんにキッチンの場所を聞いて、コーヒーを淹れた。
食器のあるところとか、コーヒーメーカーの使い方をお手伝いさんに聞いて、なんとか不器用ながらできた。
トレイにマグカップを二つ載せて持っていくと、ボンはさっきとかわらぬ姿勢で絵を描いていた。
「ボン、お持ちしました」
「さんきゅ」
そういうとボンは立ちあがってマグカップを一個取った。
窓辺まで行くと、カップを棚に置いた。
そこには写真立てがあった。
今、ボンが描いている女性の写真だった。
「もう一個のコーヒーはお前飲めよ」
「えっ…ボンの分は…」
「俺は喉乾いてねえから」
そう言ってまた絵を書き始めた。
仕方なく、部屋の隅においてある丸いすに座りながら、コーヒーをちびちびと飲んだ。
ボンは時々、イーゼルの下に置いたペットボトルの水を飲んでいた。
本当にコーヒーは、俺とあの写真のためだったんだな…
暫くするとまた、ボンは立ちあがって窓辺に立った。
写真に向かって手を合わせると、マグカップを手に取った。
…もしかして、おかあさんだろうか…